宿命の楽器


 今日、ちょっとしたことで歳月を指折り数えていて衝撃を受けた。


 俺はギターを弾き始めてから30年にもなる。


 ヘイ!ユー!!


 それでこの程度かよ。まったく後戻りきかねーぜ。人生後悔ばかりだぜ。


 さて、そうはいってもこのところ自分の中でギター熱が高まりつつあるのも事実だ。ある時期、エレキおよびフォークに関心が失せた時期があった。まぁ、クラシック・ギターをピックで力いっぱい掻き毟るとか、弓でギーコギーコ弾くとか、そんな方向性だったものですから(現在進行形でもある)。しかし最近、フォークやエレキも楽しんでいる。心境の変化だな。


 まぁ良い。で、熱が高まってくると妙に欲しくなってくるものだ。新車でも中古車でもどちらでもいいのですけれど。ということで、とりあえず楽器屋に様子を探りに行ってみよう。


 まったくギターもピンからキリまであるものよのぅ。この20年余りの間に俺は4・5本ギターを入手したが、その平均価格は5000円ほどだ。質屋・質屋・貰いもの・ヤフオク・みたいな・みたいな。無論程度は悪い。つまり、こだわらないさっぱりした性分の人ね、ということを暗にアピールしているわけだ。


 まぁ良い。ギブソンフェンダー、マーティンなどとフォーク、エレキの類を物色していて、とある楽器屋で面白いものを見つけた。


 アイリッシュ・ブズーキ Irish Bouzouki


 ブズーキはもともとギリシャの楽器でマンドリンの親分のようなものだ。私はかつてギリシャを初めて訪れた際、ブズーキ欲しいな、と思い、アテネ中心部の楽器屋ローラー作戦を展開したものだが、マネーパワーなく購入を断念した思い出がある。確か当時、邦貨で3〜4万円くらいだったと思う。2ヶ月間を10万円ほどで旅行していた若者は軽く敗れ去ったわけだ。


 どういうわけでそれがアイルランドのトラディショナル音楽に導入されたのか、その経緯に明るくはないが、ギリシャからアイルランドへ、途中寄り道せず、間をごっそり飛ばして伝わったらしい。


 これは試奏してみなければなるまい。


 4コース複弦。店員さんによるチューニングはG-D-A-E、マンドリンのオクターブ下である。民芸品店などではよく試奏するが、楽器屋で試奏など何年振りか。緊張する。が、マンドリンで馴れたチューニングでもあり、気持ちよく弾ける。弦が古くて駄目だったが、それでも良い音だ。軽く乾いた喜び哀しみを表現するのに大変に良い楽器に思えた。何種類かチューニングを変え、いくつかの奏法で弾き、試してみた結論であるが、ギターを買うのはやめる。ギブソン?何のことだい??


 俺はブズーキを入手する。ブズーキャーになるぞ。俺に必要なのはブズーキである。敵は小さい割に高価だ(それは14万もしやがった)。これからよ〜くリサーチして、お小遣い(ねーよ、そんなもん)、お年玉(あげる側だよ)、拾い金(拾ったことねーよ)などを信用金庫に貯蓄して挑む。待っていなさい、ブズーキよ。


※試奏したブズーキは多分買いませんが、感謝します。