ドネルケバブ


 ちょっと街歩きをしていて、昼飯を簡単に済まそうと思い立ち、あぁ、そうだ、ドネルケバブ食おう、そうしよう、と、思い立つ。ドネルケバブ焼いているスタンドの当てがある地区を闊歩していた訳。




 昨今、随分ポピュラーになったように思えるドネルケバブであるが、幾層にも重ねた肉(日本では鶏か牛だな)を、垂直に立てた鉄串に刺し、外側から炙り焼き、焼けた肉を削ぎ切りにしていくという、視覚にずどーんと飛び込んでくる肉塊のワイルドさと、それなりに手間かかるんだろうなぁと、その筋の素人をもってして想像するに難くない文明的な側面を兼ね備えた料理である。


 私は初めての海外旅行でトルコへ行った時(1990年)、こやつと出会った。まぁ、トルコ旅行すりゃ誰でも出会う。軽食スタンドから、どしっとしたレストランまで、道を歩けばドネルケバブにあたるほど焼き焼きしておる。そうなれば物珍しいので思わず挑んでしまうのが人情というものであろう。イスタンブールに着いて最初の飯で、どう頼んだものか今となってはよく思い出せないが、とにかくフランスパン二分の一に切り込みを入れ、ラム肉のドネルケバブと玉ねぎのスライスとトマトなんかを投入したサンドイッチと、ダークチェリーのジュースを頼むことに成功し、軽食スタンドのカウンターで「どれどれ」と賞味したのだ。



 香ばしさ ★★★
 スパイシーさ ★★
 ジュースィーさ ★



 そして私はとりあえずこやつにずっぽし嵌った。スタンドで食えば安上がりだし(ジュース込みで200えんくらいだったかな)。


 毎食ドネルケバブサンドとダークチェリージュース(キラズ・スユという)で人生を終えてもよかったほどだが、流石に遠い異郷の地まで来てそればかりで人生を終えるのも馬鹿げておるため自制したが、実に幾度となくそれを食うこととなった。


 そして私は当然、誰にも知られることなく秘かにドネルケバブ研究を行ったわけだよ。ふっ。


「この高さ1メートルくらいあろうかというずどーんとした塊で何人前あるですか」
「ん?100人前」


 だそうです。大体、質問への答えが概していい加減な人たちなので多分100から200の間のどこかが着地点だと思った。


 軽食スタンドのようなところのドネルケバブは削ぎ切りにすると層になった肉がバラバラバラと落下するが、ちょっと高級レストランではイメージ的にぺろーんと繋がった状態で剥がれてくる。食感も全然違う。


 軽食スタンドで、ただ単に「ドネルケバブサンドイッチ頂戴」と頼むと、フランスパン二分の一サンドイッチが供される。流石に満腹になる。あれこれいろんなものを食したいという好奇心旺盛の貴方にはヘヴィーなことこの上ないであろう。そんな貴方は「四分の一パン(チェイレッキ・エキメッキ)で頂戴」と言えば、半切りの半切りのフランスパンで供してくれるはずだ。私はその事実を明日トルコを去る、という最後のドネルケバブ食いの現場で知った。


 研究以上。




 さて、長い回想シーンの後、私はドネルケバブ焼いているスタンドを発見し、ありつく。牛のドネル。フランスパンではなくピタパンに挟むのが日本ではポピュラーであろう。ドネルケバブを焼く主はトルコ人で、トルコ語を思い出しながら話し込む。トルコの経済成長率などについて。おっと、難しい話は日本語で。