逆回転

その祈りは解読されてはならない なぜ



6月7日、移動式音楽班のホームページに「その祈りは解読されてはならない なぜならそれは犠牲だから」という歌をアップロードした。よかったらお聴きください。


移動式音楽班 音の世界「その祈りは解読されてはならない なぜならそれは犠牲だから」


 サウンド面で、ちょっと、触れておきたいこだわりは、曲の冒頭で導入されるイースター島古語(すでに死滅語)Rongorongoの語りを、わざわざテキストを逆読みして録音し、音声編集ソフトで逆回転に加工してコレクトなRongorongoにしている。つまり、例えば Aoevai(アオエヴァイ)という単語を Iaveoa(イアヴェオア)と発音して録音し、逆回転させて元に戻すわけです。


 それに何の意味があるの?と聞かれると、まぁ、ほとんどない、としかお答えのしようがない。強いていうと、失われたものへの私なりの敬意です。人にとっては本当にどーでもよいところへ手をかけることが重要なのです。それ以外にも、原語のアクセントの位置が、ポリネシア系言語の特徴からどの音節にくるか類推はできたものの確証がなかったので、逆回転させ不自然で機械チックな発音にしようと思った、ということもある。


 この作戦、わー!ローリー・アンダーソンのパフォーマンスみたいじゃん、と自分の中では大いに盛り上がった。


 彼女の場合は、逆読みすると違う意味になるような文をテープに吹き込んで、そのテープをバイオリンの弓に装着し、バイオリン本体に取り付けた磁気ヘッドを擦ると、弓を動かす方向によって文が変わる、というものだったと思う。まさにパフォーマンス。至芸なり。工学知識の皆無な私になぞ、思いもよらぬアイディアだ。好きだぜ、このお方。


 関係ないけど、知っている回文。


 Madam, I'm Adam. (マダム、わたしはアダムです)
 Eve. (イヴよ)


 これは、字面では完全な回文だが、因みに英語式に発音したものを録音して逆回転させると「マダミアマダム」「ヴイ」となるはずで、音声上は回文ではない。
 日本語でも「たけやぶやけた」は表記上、回文だが、音声を逆回転させると「アテカユバイェカト」というような感じになるはずだ。「しんぶんし」は「イシヌブミシ」または「イシヌブニシ」というような感じになる。日本語じゃないみたいになる。


 このように、ローリー・アンダーソンや私のあとに続いて、逆回転させた音声に意味を持たせたいという試みを志すものは、以上のような特徴に十分、気を遣わなければいけないな。んー、あまり志す人はいないと思うけど。


 さて、そんな風にして仕上がったRongorongoの語りを聞いてみると、自分が喋っているのではないような風に聞こえる。だが、それ以上のことは、こうやってアピールしなければ、きっと、誰一人気づいてくれないのだろうな、と思って。