春、おじさん、日本を斬る


3月わたしは生き返る
南のひとにはわかるまい


あぁ、うわぁあぁ、あああぁ、わああ〜


春の風、花の香り、くちびるに歌、いのちのうた


(作詞:おれ)


 さて、春だ。恋の季節だ。(そうかな?)
 きっと、みんな恋をしたがっているんだ。(そうなのかな?)


 そんな高校生時代の話。ここまでの脈絡とのつながりは、全くない、ないような気がするよ。


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 高校生の時、ローカル線に揺られて学校へ通っていた。長野県東部、佐久地方の話だ。座席は二人掛けの対面式で、朝はあまり座れなかったけれど帰りはまず座れた。のどかなもんだ。


 ある学校帰り、友人(ヤロー)と座席に座って語らいながらの下校時間、対面式の座席の向いに座っていたおじさんが急に口を開き我々に声をかけてきた。


 「きみらさぁ、日本三大ぶすってどこか知ってるー?」


 唐突な問いだ。そんなこと現役高校生が知るものか。その人はくたびれたサラリーマン風で、俺たちの土地の喋り方とは少し違う語感の喋り方だった。


 「いえ、わかりません」
 「そう、よく覚えておいた方がいいよ、コレ。まず愛知県ね。ホント。ぶすしかおらん」


 おじさんは半ば吐き捨てるように、まず愛知県を断罪した。


 「次ね。次、茨城県。あれもひどい。ひどいぞー」


 ひどいのはそんな事を言うあんたの方だが、つぶやくような語り口がおかしくってつい聞いてしまう。


 「で、三番目ね。三番目。どこかわかる?ここ。ここよ。佐久。一・愛知、二・茨城、三・佐久の順な」
 「あれ?おじさん、二番目までは県なのに、何で三番目は急に地方になるのですか?」


 思わず友人とげらげら笑ってしまった。


 「え、へへ、ぶすしかおらんね、佐久、そうだろう?そう思うだろう?へへ」


 もしかしたらおじさんはセールスかなんかで日本中を行脚していて、こんな風にローカル線で乗り合わせた若者には必ず三大ぶす話を語りかけるのかもしれない。で、三番目のオチがきっとその土地なんだ。


 おじさんは俺たちが大ウケするのをみて満足そうに目を閉じて眠りに入った。


 その後、電車通学であるが、一時間に一本ペースの運行ダイヤに嫌気が差し、冬期以外は自転車通学に変えた。


 その後、「日本三大ぶす」を検索してみると、上位二位は定説のようだが、私には確証がない、と保身しておこうっと。三位についても。