エレキ

エレキ



 近頃、やや訳あって家でエレキ・ギターを掻き鳴らしている。エレキを弾くなんて滅多にないことなのだ。いや、アンプから大音響は響かせていないので近所の親父が怒鳴り込んでくるような心配はご無用。


 ま、エレキを上手に弾けたことなど人生史の中で思い出せない、つまり私はへたっくそなんです、と白状しておくが、それにしても、それにもまして、下手。


 普段、よく弾く弦楽器といえばクラシック・ギターマンドリンだ。そんなことをいうと正統的なギター・マンドリン・アンサンブル系の人間のような書き方になる。クラシック・ギターは掻きむしるように弾いたときの音が好きなのでそれ用、マンドリンは地中海中央のイタリア風の風情ではなく、地中海東よりのオリエントな風情を醸し出すようにとチューニングを変更している。なので、ギター・マンドリン・アンサンブラーとしては外角低めな、ワンバウンドでどこか転々と転がっちまうような、そういう線ですね。


 クラシック・ギターマンドリンというと、ネックの長さも指板の幅も、弦の数も弦相互のチューニングの間隔も全然違う。マンドリンの方がギターよりも遅れて弾き始めたのだが、慣れない頃は戸惑った。どちらかを弾いた直後、別の方を弾くと、まず大きさが全然違うので指がためらったものだ。今はすんなり、誇るような腕前ではないが、技量なりに戸惑いなく弾ける。


 ところが、さてもエレキ、どうしたものよ。


 ネックはクラシック・ギターより長い。指板の幅はクラシック・ギターよりは狭く、手のひらに収まりの良い感じだ。指が滑るようにギュイーン、ギュイーンと惚れ惚れするように動くはずなのだが、動かない。あれー?


狙ったところを押さえられない。
狙った弦とは別の弦を弾いてしまう。
ムキになって弾いていると押さえ手である左手の親指と人差し指の間の股が痙攣しそうになってくる。


 あはは、俺ってこんなにも下手だったっけ。もうちょっと上手いと思っていたよ。錯覚だったんだね。少し涙目になるぜ。


 多分、10年以上エレキなんてほとんど弾いたこともなかったうえ、その間、指板の広いクラシック・ギターによるジャカスカ道と、小さなマンドリンによるアウトロー道を突き進んだおかげで、基本がメチャメチャになっているのかもしれない。とにかくサイズに慣れ、感覚を取り戻すには弾き込むほかあるまい。


 しかし、その一つの楽器に打ち込むということが出来ないんだよねー。そんなことやってると笛吹いたり太鼓叩いたりしたくなってきちゃうんだよねー。で、何も上手くならないんだよねー。とほほ。