スイカ丸剥き提案

丸剥きスイカ

 もうシーズンも終わるし、夏の記念に書き残しておこう。


 幼少時代のこと、ドリフに出演していた故テレサ・テンちゃんがスイカの輪切りをサーブするシーンに妙に感銘を受け、俺もいつかスイカを輪切りで、という魂の火を絶やさずに生きてきた。


 時は流れる。
 立派な馬鹿の大人になり、スイカの輪切りにも挑んだ。
 が、食い辛いのコレ。全周を皮が覆っているため、輪切りスイカの中央部に鼻面を突っ込むような、或いは、口先を突っ込むようなその横顔は、ホモ・ペキネンシス或いはホモ・ネアンデルターレンシスの骨格標本を思わす人相に相違ない。


 そこで我らホモ・サピエンス、皮を剥けば喰いやすいんでないの?という新機軸を打ち出すに至る。スイカ丸剥きである。


 スイカの種をよけて切る方法だとか、熟れたスイカを見分ける方法だとか、そんなスイカ雑学を人は人生を通じて身につけるものだ。私も例外ではない。しかし、スイカ丸剥きの指南など受けたことはない。このフロンティアに挑むのは正に己自身なのである。


 シャキーン。
 右手に包丁。その姿、仕事人。
 まず、林檎のように球面に沿ってするする剥くなど、まったく不可能。皮が硬くて弾力もない。平面的に少しずつ削ぎ落としていくのがよかろう。なんだかごつごつした白い多面体のようなものができる。
 そこから、細心の注意を払い、白い部分を取り除いていく。盆の上などにのせ、盆を回転させると作業しやすいだろう。根気よく削り、剥いていくとやがて赤い果肉が顔を出し、真っ赤な球体となる。ごく簡単なことだ。


 しかし、私も、ぽっと出の駆け出しの頃はこうは行かなかった。緑の皮を落とす局面で、大きくカットしようとするあまり、スイカ果肉まで深くカットしてしまったり、出来上がりもゴツゴツしたものだったりした。つまり、このスタイルは誰に学ぶものでもなく私自身が開発した作法と言える。仮に、同じような流派がこの地上に存在しようとも、それは系統的に伝播、発生したものではなく、自然発生的に生じた個別的なものなのである。


 さて、で、スイカ丸剥いて何のメリットがあるの?という疑問が東西南北から提起されるのは尤もなことと思われる。そこで冒頭に戻ろう。
 輪切るのだ。
 輪切りスイカの優れた点は、スイカの不味い部分=外周部から、美味い部分=中心部へ向かって喰い進んでいく点にある。最も甘美な部分を喰ってフィニッシュするので食後感、実にサティスファイなんだね。まぁ、俺は美味い部分を先に喰ってしまいたい、という御仁にはオーソドックスな三角カットをお勧めするが。


 写真のスイカは日本一美味いスイカを標榜する、長野県波田町産、松本ハイランドスイカです。うん。確かに違うね。美味いよ。丸剥き&輪切りで尚更だよ。