ディオニソス歌
8月17日、本家、移動式音楽班のホームページに「ディオニソス歌」という曲をアップロードしました。よかったらお聴きください。
今でこそギリシャは一神教、キリスト教ギリシャ正教が大多数を占める国となっているが、その昔、古代、この地域は多神教の世界だった。ギリシャ神話の世界です。
その神々ときたら、どうもあんまり神様っぽくない。主神ゼウスは無類の女好き(神・人問わず)だったり、その妻ヘラは異常なやきもち焼きだったりと。
さて、ギリシャ神話の中で音楽に関する神様というと、まずアポロンが挙げられる。彼(神に代名詞は許されるのだろうか?)はキタラという竪琴の名手というふれこみです。
キタラとは竪琴(ハープ)で、平たい共鳴胴から伸びた2本の棹の上方で、棹と棹の間を胴と平行に渡された棒に装着された糸巻きより、共鳴胴へ弦を張ったものである。古代ギリシャでは重要視された楽器らしい。プレクトラム(義爪)を使ってボロン、ボロンと奏でられたことだろう。それに合わせて詩を読んだり、歌を歌ったりしたのだろうか。アポロンに目の前で弾き語られたら、死ぬぜ。きっと。
キタラの名称は今日のギターなどにも受け継がれている(キタラ>ギターラ>ギター)。今日、ギターをボロロンと爪弾くとき、アポロンのキタラに思いを馳せてみるのも悪くはなかろう。
アポロン以外にも音楽がらみの神としてディオニソスが挙げられる。彼は酒の神でもある。彼を奉る祭祀には、アウロスという笛が吹き鳴らされ、ディオニソス信者達は狂乱トランス状態に陥ったという。酒と音楽なら、まぁ、そうなるだろうな。
アウロスという笛は管が双管になっていて、それぞれに葦のリードがついている。チャルメラ二本口に突っ込んで同時に吹くみたいな感じかな。乾いたけたたましい音を奏でるはずだ。古代の絵画などを見ると、双管が上部で癒着しているものの完全に二又になっており、こうしたフォルムの楽器は今日では非常に珍しい。
アポロンとディオニソスの、楽器とそれが指向する音の方向性も含めた属性から、アポロン=理性・秩序、ディオニソス=非理性・混沌、と捉えた代表がニーチェだ。が、ニーチェに楯突くわけではないが、音楽なんて概して非理性・混沌の産物ですよ。うわっはっは。アポロンの竪琴だって、アポロン信者を狂乱ハイな世界へ導いたかもしれないし、両者とも多神教のアイドルみたいな感じがする。
というわけで、曲の狙いは確かにニーチェ言うところのディオニソス的な世界にあるし、タイトルにもしているのだけれど、音の面ではアポロン的な楽器も構わず導入する。
さて、録音の過程では、アポロンのキタラ的な楽器としてマンドリンを、ディオニソスのアウロス的な楽器としてバグパイプを導入している。理性・秩序への狙いは毛頭ない。音の力も借りて、何か世界を描けていれば良いな。
バグパイプの録音は随分以前に行なわれたものだが、マンドリンの演奏・録音はつい先日、自分の家でパソコンを前にして行なった。真夏で暑いし、部屋の窓を全開でちゃらちゃら、しゃかりきになって弾きまくったものだ。が、家人が近所の婆あから「お宅、三味線お弾きになるの?」と嫌味を言われたらしい。まぁ、無理もない。これからはせめて窓は閉めよう。しかし、私が何年かかけて開発した「俺流マンドリン奏法」に対して、いくら通常の奏法を逸脱した奏法だからといって「三味線」と冷やかしやがるとは(三味線を誹謗しているわけではありません)。俺のマンドリン道も、アポロンのキタラの領域に達するまでは、まだまだ1億千万光年年早いぞ、という神々の嘲笑を認めざるを得んな。
※興味のある方向け