明滅

明滅


 10月9日、本家、移動式音楽班のホームページに「明滅」という曲をアップロードしました。よかったらお聴きください。


移動式音楽班 音の世界「明滅」


 1980年台の後半頃、移動式音楽班はその友人トム・ヤム・クン・カラヒ(先生)とともに、彼が制作したビデオ・アートの為の音楽をおよそ半日でカセット4トラックレコーダーに録音した。4〜5曲録音したのではないだろうか。私はそのマスターテープを持っているが、トラックダウンしたテープを持っていないばかりか、4トラックを再生できるレコーダーを既に手放してしまっているため、聞き返すことが出来ずにいる。この曲はそのうちの「熱狂的不眠」というタイトルをつけられた曲の記憶を、頭の中で再構成し、分解・再構築して産み出した。

If you are lucky enough to have lived in Paris as a young man, then wherever you go for the rest of your life, it stays with you, for Paris is a moveable feast


Ernest Hemingway "A Moveable Feast"


もし、きみが、幸運にも、青年時代にパリに住んだとすれば、きみが残りの人生をどこで過そうとも、パリはきみについてまわる。なぜならパリは移動祝祭日だからだ。


『移動祝祭日』E.ヘミングウェイ 福田陸太郎岩波書店 同時代ライブラリー


 ヘミングウェイは自分が青年時代の一時期を過ごしたパリについて、そんな風に書き記した。俺も、自分が20代を過ごした街のエーテルを、サウンドとして描写してみたいなと思い、音のコラージュによって雰囲気を出そうと試みている。別にパリでなくたって構わないだろう。
 夜空に瞬く色とりどりの光、そんなバラバラな光が何かの加減で一点に集中する。その心象を描き出すプリズムは、その街と、その時代を生きた、自分自身に他ならないのではないだろうか。


 ちなみに、件のヘミングウェイの文庫本は、かつて長旅をした時に読み耽ったものだが、トルコ共和国イズニック市のカイナルジャ・ホテルというボロボロの宿の主人(アリという名だった)に、旅行者用の文庫コーナーを作りたいと請われ、荷物も減らしたかったので置いて来たのだっけ。誰かの娯楽に貢献しただろうか。主人とは、日本に戻ったら宿の宣伝に努める旨の約束を交わしたが、ここにやっとそれを果たした。
 だが、あのボロ宿、まだあるのだろうか。