Easter / PATTI SMITH GROUP


 春分を越えた。


 昼が夜を打ち負かしたのである。なんとすがすがしい。


 草木が芽吹くだろう。種が蒔かれ、やがて作物が実るだろう。冬眠していた動物くんたちもムクっと起きだすだろう。熊さんや亀吉くんたち。


 春分を祝う祭りも各地で執り行われるようだ。農事と密接に関わっているのだろう。


 さて、春分後の最初の満月の次の日曜日はイースター(復活祭)である。復活祭である。キリスト教徒にとって。これも元々はキリスト教発生以前の、古来からの春分を祝う習慣と密接なかかわりがあるらしい。


 でもって、イースターと言えばパティ・スミスの3枚目のアルバム・タイトルである。実にアクロバティックな展開。


 彼女は75年に1stアルバムをリリースし、79年までに4枚のアルバムを制作し引退状態となる。その後90年代に活動を再開しているが、活動再開後のアルバムは全部を聴いてはいない。私が90年代以降、同時代の英語のロックをほとんど聴かなくなったからだ。


 彼女のアルバムの最初の2枚、『Horses』『Radio Ethiopia』は衝動が音の塊になったような音楽で、破壊的で運命的で霊的である。この時点で彼女に暗黒ロック神が舞い降り宿っていることに疑いはない。


 特に2枚目の『Radio Ethiopia』は彼女の作品の中で私が一番好きなアルバムだ。感動的な凄まじさである。一曲目の「Ask The Angels」から素晴らしいが、続く「Ain't It Strange」の振り絞るような歌唱は彼女の作品の中でも一番好きな曲の一つだ。


 で、3枚目が『Easter』、4枚目が『Wave』と続くのだが、3枚目で音の感じが変わる。ノイジーで尖がってて攻撃的な音の塊のような前2作から、もっと整理されたポップな音になる。否、充分、存分にロックンロールしているのだが、とにかく、変わる。レコード会社がもっと売れる作品を作れと言ったのか、本人の指向か知らないが、とにかくそうなのだ。さらに4枚目では肩の力が抜けたと言うか、肩の荷が下りたというのか、1・2枚目とはもはや別人のように軽妙な味わいになる。歌い方もサウンドも。


 彼女にとっては2枚目をリリースした後、ステージから転落し大怪我を負った後に出されたアルバムということで「復活」というキーワードが「Easter」というタイトルにつながったのかもしれないが、私には、春分を挟み夜昼が逆転していくように、3枚目の『Easter』以降、暗と明が逆転していったかのようなキャリアに映る。象徴的なタイトルだ。


 『Easter』ではブルース・スプリングスティーンが曲を書いた「Because The Night」が白眉であろう。私の中では夜を最もロマンティックに歌い上げた一曲だ。「Ghost Dance」もアメリカ先住民の儀礼歌のようで好きな曲だ。


ラジオ・エチオピア

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Easter

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