続・中森明菜+パキスタン風カレー


 この間、彼女の曲のことを書いて、まぁ、それとは別件で、ある日の晩飯にインド式カレーを自作して喰っていて、その二つのエピソードが重なって思い出した。


 パキスタン人の友人がいた。アルバイト先が一緒だったのだ。今度家へ来いよ、というので友人とその弟が住まう川崎のアパートに、土産のケーキを片手に遊びに行った。


 「やー、どもどもども、アル・サラーム・アレイクム、お邪魔します」
 「よく来たね。まぁ飲んで飲んで」
 「いやいやこれはこれは。え、あ、まぁそんなもんで」


 飲めったって彼らはムスリムで、アルコールはほとんどやらない。バラの香りのする水を勧められる。うわ、すげえな。バラ飲んでるみたい。


 「カレー作ったよ」
 「いよっ、待ってましたっ」


 というわけでご馳走になる。


 深鍋に例の黄色いカレー汁が程よい湯加減で煮立ち、鶏が丸ごと一羽浸かっている。うわ、すげえな。ん、よく見るとカレー汁の表層、およそ3センチメートルほどが透明の液体で、鍋底に沈殿したカレースパイス化合物と分離している。もしや、この上澄みは油か、うわ、すげえな。混じりっけなし。


 「ご飯とパン、どっちがいい?」
 「どっちも魅力的ですね」
 「じゃあ、両方ね」


 目の前に白米をどかっと盛った皿に食パンが2枚添えられ、更にチキン・カレーをよそった器が別に置かれた。鶏は分解されていた。


 「おっ、パンって食パンなんだ」
 「パン、よく食べるよ。遠慮しないで。食べてください」


 という訳で、まずカレーの汁をスプーンでちゃぷちゃぷ混ぜ、油とカレー化合物を一体化させてみる。何となく。そして飯にかけたり、食パンを浸して食う。


 スパイシーで鶏の味が出ていて美味かった。スパイスのクローブが丸ごとゴロゴロ入っていたのが印象的だった。クローブを多用すると、深い奥行きのある香りになると思う。結構辛かった。


 皆でカレー食いながらテレビ見ていると中森明菜のライブをやっていた。


 「私、この人好きです、歌も好きです。とても」と友人。
 「俺も好きなんだけど、この人、自殺未遂してその復活公演なんだよ」
 「どういうことですか?」
 「んー、スーサイドに失敗したっつうことだな」
 「え、えー、死んだのですか」
 「いやいや、生きてますよ。歌ってるもん、ほら。生きてて良かったよ」
 「なんでスーサイド?」
 「失恋ですよ。ディスアポイントメント・ラヴ」


 とにかく食った。カレーを。ひたすら食った。すげえ量。すげえ油。その後二週間ほど食欲が湧かなかった。胸焼けして。多分、油のせい。


 日本でしばらく働いてアメリカへ行きたいと言っていた。パキスタンのカラチに残してきた妻と幼子の写真を見せてくれた。美人だった。すっげー美人だった。写真から後光が差しているかと思った。


 「すげえな。中森明菜より美人ですね」
 「ふっふっふ」


 その後、俺が旅に出ちゃったりして音信が途絶えてしまった。アメリカで家族で暮らしているだろうか。