中森明菜「LA BOHEME」

 春雨じゃ、濡れて参ろう。


 「DESIRE」のシングル盤B面だった。A面同様アッパーな曲だがA面より好きだ。曲の最後の一節である。


花びらまじりの雨の夜だから
ホロリ濡れながら歩きたいね

貴方も同じLA BOHEME(ラ・ボエム)
この都会さまよいびと


LA BOHEME(ラ・ボエム) 中森明菜歌唱 湯川れい子作詞 都志見隆作曲


 全歌詞( uta-net 提供)


 中森明菜の歌が好きだった。「ミ・アモーレ」以降「LIAR」に至るまでの数年間、1985年頃から何年間かの曲。それ以前の曲はどうもアイドルぽかったりして、人によってはそういうところがいいのだろうけれど、アイドルに入れあげたことがないので、中森明菜にしても例外ではなく、それほど思い入れはない。「アイドル中森明菜」はどうでもよく「歌手中森明菜」の歌は好きだった。あぁ、「LIAR」以降には佳曲がほとんどない。


 まぁ、言っちゃあ何だが歌謡曲である。されど歌謡曲である。貴方と書いて「あなた」と読むとか、都会と書いて「まち」と読むとか、そういう仕掛けが鼻をつく人には苦しい歌詞である。


 ここに至るまでもなかなかクサイ筋立てが展開する。

  • 男はギタリストだ。真夜中のステージでサングラスにくわえタバコ。
  • 男のギターは女たちをメロメロにするらしい。たらしかもしれない。
  • ガスライト煙る行きつけのクラブの狂騒。
  • 女(主人公)は悲しみを背負っている。恋愛の嘘を許せない。
  • 男のギターはそんなかたくなな心を解き放つかのようだ。
  • 女は本当の愛を求めさまようボヘミアンラ・ボエム)、男は情熱に任せた愛に漂うボヘミアンボヘミアン同士が都会に交錯する。


 ゴージャスだ。ジャンゴ・ラインハルトの指先のように目まぐるしい。そんな展開の最後が冒頭の一節。妙にしっとりしている。ずぶ濡れでもびしょ濡れでもなく「ホロリ濡れ」である。しかも自分から。孤独、哀しみ、情熱、情熱を冷まそうとするボヘミアン女、80年代の自立した女、などなど、そんな情感が滲んでくる。


 吐息混じりから、見得を切り喉も破れんばかりにまで、ストレートに歌う80年代の中森明菜に似合っていた。春の夜、雨の晩、思い出してつい口ずさむ。


 私も男、そしてギターも弾くよん。メロメロなメロディー、べれべれ弾いてみたいものですよのぅ、はっはっは。