暑い日


 何年も前のことだが、今頃の時期、東南アジアをしばらく旅行していたことがあった。


 あちーよ。


 出費を切り詰めた旅行ではあったが、それ以前にした、もっとずっと長い旅行に比べればいくらか余裕があった(ちょっとだけ)。なので、旅行最初の晩、バンコクでエアコンなしの部屋に泊まり、あまりの暑さにうなされたのに懲り懲りし、翌日からエアコン付きの部屋に移った。せいぜい100円か200円ぐらいの出費増だったと思う。300円が500円とか、そんな感じ。まぁ、とはいえマネーパワーのない旅行者は10円・100円に対しても、実に浅ましく、大人げのない対応を取ったりしてしまうものなのだがな。


 それまで、長旅でエアコン付きの部屋になど泊まったことがなかった。ゆえに、実にリッチな旅行に思えた。生まれて初めてのエアコン付きの部屋泊まり歩きの旅なのだ。こういう旅行に縁遠い方には、馬鹿かと思われるか、全く想像もつかないかどちらかだろう。世の中、いろいろな生き方があるものだね。


 さて、エアコン付きと言っても、エアコンにも程度があった。


 床に据え置かれ、巨体から轟音を発するエアコンの場合、暑さとは別の意味で人の眠りを困難にさせる。(バンコク、タイ)


 猛烈な通り雨と暴風により、町の電力が停止し、折角のエアコンが稼動しない。(ニャンウー、ミャンマー


 ほどよい加減の温風しか出てこない。(プノンペンカンボジア


 ロシア製で全てがキリル文字で書かれており、あらゆるツマミとあらゆるボタンの機能が一切理解できない。(ビエンチャンラオス


 文句を言って解決することもあれば解決しないこともある。解決しなくてもこの時は、鷹揚に笑っていられた覚えがある。解決しないことを楽しんでいた。ロシア製のエアコンなんて、格好いいじゃないか。むしろ。


 はて、なんでこんなこと思い出しているのだろう。それというのも、ふと気がつくと、この日報をつけだしてから一年経っていた。ということで一年前の俺は、あ、そんな感じだったんだ、とわかる。読めば。少なくとも自分には。では、二年前は、その前は、と記憶を辿っていくと思い出せないことが多い。埋もれた日常で。


 で、何年も前の今頃の記憶に漂着する。で、真っ先に暑かったなと思い出す。日常ではなかったので。


 気の向いた日にだけ書いている。一体、それが日報だろうか。とはいえ、週報以上には書いている。ニ・三日報、という感じでしょうか。日常は何かに書き留めなければ忘れる。が、あれ〜、大体、なにがテーマだっけ、この日報。おっ、我が楽団の活動だったな。関係ないこと、かなり書いているな。一年、ここに記された感じでした。