苦行


 何の因果か、胃カメラというものを飲み込む羽目に陥った。そんなもの、これまで飲んだことなかったのである。別に胃の調子が悪くて、と言う訳でなく、単なる健康診断です。


 「ちょっと、移動式さん(仮名)、あーた、バリウム&レントゲンと胃カメラとどっちにするの?」と、申し込みに際してその基本姿勢を問われ、どちらも無償でできるということだったので何となく胃カメラのほうがお得かな、と判断したわけだ。で、同じ健康診断の中に含まれる、検便のような実に胸くその悪い行いよりも、胃カメラなんてあとくされなくて涼しいものだぜ、と、まったくの平常心で臨んだという訳。


 前日の夜9時以降飲食禁止という、医院から指示された掟を守り、ふらっと医院の門を叩く。たのもう。一通りの健康診断コース実施後、フィニッシュが胃カメラである。


 まず、なにやら紙コップに入った液体を飲めといわれるがままに飲まされる。あれは一体なんだ。秘薬か。次いで、喉に麻酔をするという。歯科の麻酔と同じものだとのこと。ノズルをプッシュするとその先端から液体が噴霧されるような、よくありがちな消毒液の入った容器状のものを口元に突きつけられる。


 「はい、あーん」「あーん」


 すると看護士はそのノズルを人の喉深く不法侵入させ、シュッと一吹き。


 「おえっ」


 そんなに喉深く突っ込まなくてもよかろうに「はい、も一回」と、更に喉奥深くヘシュッの第二次攻撃。


 「おえー」


 空げろ連発。うわー、いきなり苦しい。既に瞳は涙で潤んでいるよ。麻酔で唾が飲み込めなくなって嫌な感じ。それから間髪おかず、胃の働きを鈍くする注射というのを打たれる。そんな痛み、何のことはないね、と感慨に浸る間もなく「移動式さーん、こちらどうぞー」と。もうカメラである。素早い展開だ。


 横たわり、マウスピースをくわえささられ、いきなりホース状のものを喉に突っ込まれる。


 「おえっ」「おえー」「お・えっ」「嗚咽」


 そんなものが入るか。おえおえで胃が裏返りそうだ。腹筋がいてえ。私はカメラを半ば自分の意志で飲み込むのだと誤解していた。これは人によって強引に突っ込まれるものです。力を抜けだ、唾を飲むなだ、いろんなことを語りかけられるが、く・くるしいのだ。それでも徐々に落ち着いてきて、腹部で異物(カメラ?)が向きを変える様子などが何気なく伝わってくる。フィナーレは呆気なくするっと喉からホースが抜けていった。


 やや荒れているとのこと。暴飲暴食は避けよう。因みに目前にモニターがあったが、ずうっと目を閉じていたので何一つ見ていません。因みに少し涙がこぼれました。


 ま、初めてで苦しかったが、いいよ。またやっても。あの見たくもない検便よりはマシだ。