寒い国の男、暑い国からやってきた女の歌を伴奏する


 さて、既報の通り9月1日、嘉手苅みばさんという、素晴らしい唄うたいの方の、気持ちは背後で、実際は横っちょで演奏してきた。スペシャルゲストが俺(移動式音楽班)だということで一瞬のけぞる。普通、客呼べる人間でしょ、それって。推定御利益なし。


 既に気心の知れていそうなバンドの中に、一体、何を演奏するのかもわからぬ私のような輩が突然加わったわけだから、バンドの皆さんはさぞや戸惑われたことだろう。私側も、当日現場で初めて合わせた訳で、難しく感じた面もそりゃいろいろとあったが、ベストは尽くしたし、良い音を奏でられた瞬間もあったかもしれない。


 私が演奏した曲と担当楽器は以下(他にもいろいろな曲が演奏されたけれどね)。


「leave me a lake till my dying day」(マダリン)
「わたの樹」(マダリン)
「通りの向こう、果てを見る」(なぜか急に請われてクラシック・ギター弾き語り独奏)
安里屋ユンタ(琉球民謡)」(サズ+歌唱)
「nutcracker boB」(サズ)
「ウムカギ」(ティン・ホイッスル)


 嘉手苅さんの作品はこちらでお聴きになれます。


 ファンとしての感想だが、嘉手苅さんはバックの演奏を選ばぬ歌い手な気がしている。自分が一つのカテゴリーのような。今回のように、ジャズをベースとしたバンド(そこに俺のような異物が闖入しているのだけれど)だろうと、ゴリゴリのロックだろうと、はたまたアコースティックなセットだろうと、何であれ自分の色を出せるだろうし、羽ばたくように歌えるだろう。凄いな、と思う。ただし、弾く側には相応の覚悟が必要だろうな、とも。


 ヒートアップしていく熱気を感じながら、こちらもそれに応じつつ弾いた曲もあったし、ひたすら弦を掻きむしるように弾いた曲もあったし、心吐き出すように奏でた曲もあった。印象深い。またいつの日にか、後方でも側方でも、再び音の現場で相まみえんことを願い、終演後、ひとりバーボンのグラス(なみなみサービス)を傾ける、寒い国からやってきた黄昏野郎であった。心はあっちくなったぜ。