おしどり茶


 仲のよろしいものを例えて「おしどり」などと呼ぶ。おしどり夫婦なんつって。ま、世間からはおしどり夫婦と目されていても、実体は仮面おしどり夫婦だったりする場合もあるかもしれない。仮面の下の素顔、それはわからないのである。


 さて、そんなおしどりの名を冠した、ベスト・まっちんぐなドリンクが香港にある。


 鴛鴦茶 おしどりちゃ


 紅茶と珈琲を混ぜた飲物である。さすが香港人、やることがイカシてるぜ。そんな飲物を作るのは、まだティーの残ったカップの中に有無を言わさずコーヒーを注いでしまう、投げやりで人の話を聞かない客室乗務員くらいのものだろう。


 香港といえば、中華料理の中の花形、広東料理の名菜のメッカである。が、街中の若者がたむろするような喫茶店では、実になっちゃいない洋食のようなものや、実にイカシた香港ならではのドリンクが飲めるってわけだ。


 私もかつて香港を訪れた際、若者でほどよく賑わう喫茶店兼レストランのような店で鴛鴦茶を所望した。広東語で「ユンヨンチャー」だか「ユンロンチャー」などと言うらしかったので、適当に中国語風に抑揚をつけてオーダーしてみた。私は旅行中は基本的に現地語を学び現地語で喋る主義者なのだ。が、店員は「?」という顔をして私を眺めている。仕方がない。「ティー、カフィー、ミックス」と言ってスプーンでぐるぐるかき混ぜる仕草をすると、「了!」という顔で頷き、ぐるぐるかき混ぜる仕草をやり返してくれた。ふれあいコミュニケーションである。


 濃い茶色の液体がカップに注がれて出てきた。飲んでみる。


 紅茶とコーヒーのそれぞれの風味、それぞれの芳香、それぞれの苦味などが、それぞれ勝手にぐいぐい自己主張しようとしている。仲の良い夫婦とは思えんのだが、しかーし、それをミルクが優しく中和し、砂糖が丸く収めているような、そんな飲物だ。こりゃミルクと砂糖がポイントなんだな。どうもその混沌が一つの世界を醸し出している具合が、まったく香港というか、チャイナ世界の縮図というか、そんな世界観をも内包しているようではないか!


 いや、まぁ、特段、美味くはない。妙な飲物だよ。


 どうも甘い物を摂取したい情熱に火がついているこの頃(疲れているのか、俺?)、さーてティータイムになに飲もうかな、と考えていてふと思い出したので、紅茶ティーバックとネスカフェとで適当に作ってみた。あぁ、こんな感じだよ。きっとその道の通にとっては細かい配合(紅茶:珈琲比率)やら、紅茶はどこ、コーヒーはここと、もしかすると鴛鴦茶道があるのかもしれぬ、が、どう考えたって基本的にキッチュである。



 やってみ。