パキスタン・カレー


 いつかパキスタン人の友達の家へ伺い、カレーをご馳走になった話を書いた。よい思い出だ。が、以来、パキスタン・カレーを標榜したものを食う機会なく日々を送ってきた。その間、パキスタンを見限りインドとの友好関係ばかりを深めていた訳ではない。


 ときどきの立ち回り先に「辛いだけのカレーに飽きたら」とかなんとか看板を掲げたパキスタン・カレー屋がある。私は幾度となくそこへ行こうと試みたのだが、私が行く時にはいつでも閉まっているのだ。常にである。で、これがよく出来たもので、その建物の上階(パキスタン・カレー屋は一階)に、インド・カレー屋があり、自ずとそこへ足を運ぶことになる。何度も行ったぜ。


 さて、先日その辺りを立ち回る機会があり、あまり期待せずに行ってみた。や・やや。やってるじゃん。アッラーの思し召しなり。迷わず入店。薄暗く狭い店内に彫りの深いお顔立ちのマダム。客は私と連れだけである。


 大体、私は他に誰も客がいない、という店が得意である。そういうところばかり行っている気がするな。以前、東京で、昼・ビルマ料理、夜・エチオピア料理を食いに行ったところ、昼夜とも客が私と連れしかおらぬという、一体、一千万人もの人々が生きる町で、これはどうしたことか、という体験をしたものだが、もしかすると私が貧乏神なのかもしれない。


 さて、メニューであるが「Karahi」「Curry」「Palak」とカテゴリーが分かれている(ように見える)。Karahiはパキスタンの伝統的な料理で、カレーのルゥが入っていない汁気の少ないドライな料理、Curryはルゥの入った汁気のあるもの、Palakはほうれん草入りのカレーとのこと。マトン入りのKarahiと、Aloo Gobiというジャガイモとカリフラワーのカレー(これはインド料理屋でもよくある)、パンジャービー・サラダを頼む。


パンジャービー・サラダ



 大根・人参・キュウリ・カイワレにパプリカとクミンのミックスのようなスパイスが振り掛けられ、レモンを絞りかけていただく。シンプルにして結構な味わい。


マトン・カラヒ



 マトン角切りと、それに絡む、玉葱やトマトから成り立っていると思われる汁気の少ない煮汁、インドほどスパイシーではないが、ほのかに感じるスパイスの香り。付け合せのししとうをかじりながらいただいた。丸く香ばしいナンと合う。南アジアというより、中央〜西アジアを感じさせもする味。


アルー・ゴビ


 


 これもそれほど汁っぽいわけではないが、カラヒよりは野菜の甘い汁気を感じる。イモとカリフラワーの優しい味がした。滋味溢れるチャパティ(薄い全粒粉のパン)と良く合う。


 チャイをサービスしてもらった。シュクリア(ありがとう)。


 一般にインドカレー屋で食うカレーは、カレーの中でもレストラン料理として洗練されたカレーだと思っているが、非常に野趣溢れる料理を食ったというか、マダムの手料理そのもののような、一概にカレーと片付けられないものを食った気がした。確かに辛いだけのカレーではないな(実際、それほど辛くなかった)。マゼダール(うまい)。


 私はいつの日か、カレーが一体、どこから始まり、どこで果てるのか見てみたいと思っている。東はバングラデシュ、西はパキスタンと踏んでいるが、何をもってカレーと認識すべきか、という難問もある。奥深きカレーの官能よ。


 山梨県甲府市 SAPNAというお店です。マダム。シュクリア。