ヴァイオリン


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 古くからの友人にヴァイオリンを譲っていただいた。3/4サイズの古びた味わいのあるものである。なんでも、その人のじいさん(故人)が何者かの借金のカタに巻き上げてきたものじゃないか、と言っていた。巡り巡って私のもとへ、である。とにかく、これによって古くからの友人が「恩人」の域にランク・アップしたことは間違いない。ありがとう。


 昔、ある友人が、彼の通う学校から拾ってきたヴァイオリンをしばらく預かり弾かせてもらったことがある。


 ギー。ギ〜。


 まさにギーとしか鳴らない代物だった。ザラッとしてる。私にはその印象がとにかく強くて、以来、弦楽器でも弦を弓で擦って弾くものは敬遠してきた。しかしそれでも、その類の楽器をいくつか持っていたりして(つい出物は買ってしまうのだよ)、何年も気の向いたときにギーとか鳴らしているうちに、お、俺、結構、弾けてるじゃん、なんて思うようにもなっていた。


 この夏、ライヴやる前に、演奏に参加してくれるアコーディオン弾きとの事前打合せで、セットリストをさっと演奏したデモ音源を参考に聴いてもらったのだが、その中で一曲、そんな楽器をギーギーと弾いてみていた。すると、こんな質問が私に寄せられたものだ。


 「ところで、この音痴な楽器なあに?」


 あー、それはね、などと説明するまでもなく、私はそのメッセージをこう読み替えた。


 「チミはまさか、そのド下手な楽器を人前で演奏するつもりで、ワシに伴奏しろと言っているのではないよね」


 すみません許してください。ということでその楽器は別のものに差し替えた経緯がある。人が聴くと、実はさっぱり弾けていないのであった。


 さて、で、件のヴァイオリンである。そんなライヴの現場が過ぎてから私の手許へ渡ってきたわけであるが、弦は全部ぶち切れていたので、近くの楽器屋で弦を購入してきた。4本で1000円くらいのものだったが、高価なものは10倍以上していた。マジで取り組むと大変そうなことが伺えた。ヴァイオリン道は。


 早速、弦を張ってみて、おもむろに弓を構えてみる。おっと、純正の弓は紛失していたということだったので、その弓は私の楽器コレクションの中から持ち出してきたものだ。


 きゅ〜〜ん。


 !!


 びっくりである。良い音だぁ。ツルっとしてる。まるでヴァイオリンである(だからヴァイオリンだよ)。知らぬ間に俺は上達していたのかと錯覚する。もちろん錯覚なわけだが、私が奏でているとは思えないほど良い音がする、と言いたいわけである。俄然ヤル気上昇である。今に披露しますわよ。


 それから、既にコレクションされている私の弓奏楽器の類(民俗楽器・自作改造楽器)についても、純正の弦が入手できなかったりで、いままで適当な弦(エレキの弦とか)を張っていたのだが、それがいかに間違ったことだったかを深く知ったわけだ。ちゃんとした弦を張ろう。