Nav Katze / 夕なぎ


 1987年頃の話。何チャンネルか忘れちゃったけれど、深夜テレビで、その日の全プログラム終了前に音楽PVを背景に天気予報が流れる3分ぐらいの番組があった。毎晩、眠るのがなんだか名残惜しくて、その天気予報が終り、テレビ放送がひとときの中断となるまでなんとなく起きていたものだ。テレビ見ていたり、本読んでいたり、音楽聴いていたり、シンセ弾いていたり。


 まぁ、眠るのが名残惜しいといったって、一度眠りにつけば昼までぐーぐー寝ているのだから、要するに怠惰な生活を送っていたに過ぎない。昼寝ていると光が眩しくて眠れない。ということで、この頃の私が開発した睡眠法が、枕を頭の下ではなくまぶたの上に乗せて眠る法と、掛け布団の中に頭まですっぽりと潜り込み、そのままでは布団の中で窒息するので、空気が入るように掛け布団と敷布団の間にちょっとだけ通気口を作って眠る法がある。
 特に前者はその後の人生でその有様を目撃した人々から大抵「移動式くん(偽名)て・・・ユニークな眠り方するよね」などと賞賛の声を頂くこととなった。


 本筋から大幅に脱線している。


 そんなある怠惰な一日の終りに出会ったのがこの曲である。聴いて、寝て、起きて、そのサウンドが頭の中にくっきり残っていて、CSV渋谷(当時、公園通りにあったレコード屋)へレコードを買いに行った。


 45回転7インチのシングル。プロデュースは窪田晴男。何度も聴いた。多分、タバコ吸ったり、ぼさっとしたり、寝転がったりしながら。


 Nav Katzeのライヴも深夜番組で見た覚えがある。良いパフォーマンスだったが、この曲以外、あまり印象がない。その後、CDも一枚買い求めたりしたが、どうもそれほど印象がない。


 しかし、この曲に関しては、陳腐な言葉は必要なかろう、と思えるほど好きだ。聴いていると奇跡ではないかと思えてくる。言葉で説明することも出来るし、サウンドの系統云々についても私の知識を動員して語ることは可能ではあろうが、何というか、批評したくない。絶対的な作品なので。自分にとって。


 ところで、怠惰な日々は、ある日、不意にそれが終りを告げるまで続いたのである。


 今も私は趣味で歌を作り、演奏したりするのだが、こんな歌を作れたらな、と思う。スタイルの話ではなくて、自分の人生に強烈な刻印を焼き付けるような曲。もちろん、今の私は当時の私ではないし、当時の私も今の私ではない。そして今あるのは今の私である。


 さて、今の私は夜に眠り朝に目覚める政府推奨の勤勉&健康ちゃんなのだが、枕を頭の上に乗せて眠る習慣は変わらない。ときどき布団の中に完全にくるまって眠る。通気口は必須である。