ネズミ(2)
今年はネズミちゃん年らしいよ緊急企画として「私とネズミ」についてオッサンの主張をぶっ放しているこの頃です。
さて、ネズミについて更に何を書くことがあるのかということであるが、どうも噂では連中は美味いらしい。
この手の話題では「げー」となる御仁が相当いらっしゃることを私もよく承知している。しかし、前回愛くるしいハムスターを話題にしたならば今回はネズミ食を話題にしなければこの世界の深みに立ち会うことはできまい。
「小成金のジョージの家の大広間には豪勢なシャンデリアが輝き、妻のアンジーは大粒の真珠の首飾りをしていた。しかし、彼らの家庭は暗黒であった」などという表現に我々は資本主義の光と影を見出し、
「電気のない村の真っ暗な夜、しかしジョージにとって今そこにいるアンジーは恒星のように輝き世界を照らしている」などという表現に我々は村の掟社会の中で愛を貫かんとする恋人達の姿を見出すものだ。つまり、そういうことだ。そういうことにしてくれ。
その肉はあっさりとして食用ガエルやトリ肉に似ているが、カエルのように水っぽくはなく、トリよりは野性味があり、もっとコクがあって精妙である。(中略)珍味であり、美味である。奇味であり、魔味でもある。
開高健『小説家のメニュー』
開高健はベトナム戦争従軍取材中、最前線の兵士からそれとは知らされずネズミをご馳走になり、その美味さを知ったという。もっとも最初はコレラかペストで死ぬんじゃないかと生きた心地がしなかったらしい。
東南アジアの稲作地帯(水田であれ焼畑であれ)では、ネズミは米を狙う害獣でもあろうが、野の味としても地域によっては好まれるのだろうか。どぶネズミなどと違って、そんな田ネズミ野ネズミは確かに美味そうな予感がする。
開高は後に南米大陸縦断の旅の途上、ペルーにて「クイ」なるモルモットを食している。ペルーの山岳地帯ではクイを家庭で飼育して祝い事などに食するらしい。腹で開いて丸ごと揚げるか、煮るか、焼くかするという。
モルモットは絶品である。ちょっと特異な匂いがあって、人によっては敬遠したいというかもしれないが、しかしクサヤの干物とか、ゴルゴンゾラのチーズだとか、塩辛だとか、しょっつるだとか、ジョセフィーヌの秘所が好きな人なら、食べて、歓喜して、病みつきになってしまうだろうと思う。
開高健 同上書
あぁ、じゃあ俺病みつきになっちまうな。
クイは、モルちゃんであるから、そのルックスは大変可愛らしい(ネットで画像検索してみるがよい)。なんでも「クーイクーイ」と鳴くからクイというらしいのだが、そんな最高にキュートなクイについてはこんな証言もある。
味は、カエルそっくり。特にアゴの部分がシコシコとしていてうまい。(中略)ううむ、これはウマい! ウマすぎる!!
江口まゆみ『チリ・ペルー・ボリビア酒紀行』
私はネズミの類を食ったことが一度とてないのだが(知らずに食わされていたりする可能性もあるが)、ともかく、この東南アジアの田ネズミとアンデスのクイは、食わずに死ねようものか。野性ハムスターを探しにいったり、東南アジアや南米に行ったり、私の野望は果てしなく、そして方向がてんでバラバラだ。