悲しみ 砂と楽師

悲しみ 砂と楽師



 2008年の最初の音(ちょっとした音だけれど)を公開させていただきました。よろしかったらお聴きください。


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 何か、物語の序章のような、それは悲しくて、暗く、しかし軽くさらっとしている。そんな感じ。サズというトルコの弦楽器を弾きながら作った曲。地味で単調だけれど、地味で単調な曲を作ろうと思ってやっています。


 昨年、どうした弾みか、このサズという楽器をよく弾くことになった。人様の前で生演奏などということをさせていただく機会が何度かあり、曲によってこの楽器を導入したためである。


 入手したのは随分と彼方の思い出だ。初めてトルコを訪れたときにイスタンブールの楽器屋で購入した。それから、弾き方がさっぱりわからず弾きこなせずにいた。


 その後、私はトルコを再訪するのだが、その時にとある田舎町で、私にとってサズの師と仰ぐ青年に出会った。彼は私が仲良くなったKという青年の友人で、音楽大学に通うインテリかつ芸術化肌の男だった。顔はMr.ビーンのような感じだ。お姉さんがいて、それは弟とは似ず、私の鼻の下を通常より1.5センチほど伸ばす勢いの、黒い瞳の中に星が瞬くタイプの結構な美女だった。
 そんな面々がKの家のバルコニーなどに集結してはワイワイとくっちゃべったり、流行歌のカセットを聴いたりしていたものだが、ある日、Mr.ビーン似青年がサズを取り出してきて一曲奏でてくれたのだ。


 私はサズという楽器の演奏を、基本的に西アジア独特の、装飾音を多用した速いパッセージで奏でられるものと考えていたが、彼のそれはもっとゆっくりとしたもので、一音一音の響きをいとおしむような、実直な演奏に思えた。その演奏にあわせて歌われる低音の歌も、私達がフォークソングと呼ぶようなフィーリングの音楽に非常に近く感じられた。


 私は彼にリクエストし、会うたび何曲も奏でてもらった。なるべくお姉さんにも会いたかったし。


 私は彼のスタイルを見よう見まねで自分なりに取り入れることで、初めてこの楽器を鳴らすことが出来たと思っている。まぁ、彼らに例のバルコニーで談笑などしながらそんなこといったなら「ハハ、その程度でか?お前は本日のベスト・コミック・サズ・プレイヤーだ」などと笑うだろう。


 参考までにこの曲でのサズ調弦を記す。


 1コース(A)、通常3本の弦が張られ、1本だけオクターブ下に調弦されるが、その弦を張らない。
 2コース(D)、通常2本の弦が同じ音で張られる。そのまま。
 3コース(G)、通常2本の弦がオクターブ違いに調弦され張られる。そのまま。


 更に参考までに、先日、テレビでトルコのドキュメントを見ていると、小学校に上がるか上がらないかという少女がサズで民謡を弾いていて、既に俺より上手かった。かなわん。


 しかし、出来ることなら、あの愛すべき友人達に聴いてもらえればな、と思う。いつか、も少し明るい曲を引っさげて会いに行けたらな。