春、二景


 春、東京。


 春の東京が好きだ。かつて上京したのが春だったせいもあるだろうが(去ったのもまた春であるが)、夜、生暖かく、しかしまだそれほど湿気を帯びていない風が、首筋をかすめていく感覚は、少し官能を想い起こさせもする、という記憶がある。


 人々は花に浮かれているらしく、大変、結構なことだ。私もあやかりたく、久しぶりに遊びに行ってみようと思っている。


男だったら一つにかける
かけてもつれた謎を解く
誰が呼んだか
誰が呼んだか銭形平次
花のお江戸は八百八町
今日も決めての
今日も決めての
銭が飛ぶ


銭形平次 作詞 関沢 新一


 と、浮かれておったときに口をついた曲である。なぜ、と言われてもなぁ。


 しかし、決めての台詞「銭が飛ぶ」というオチも鮮やかなことながら、一行目から二行目への頓知の利いた展開、三行目・四行目の連呼強調、五行目で突然視界が広角になるや、最後は直径3センチあまりの穴開き銭へと一挙に焦点が絞られる。どうだい、洒落てるじゃねえかい、ええ、新さんよお。まったくプロフェッショナルの仕業である。


 井の頭公園、有栖川公園、九段下、あの辺、その辺、花の下、春、歩いたっけ。


 さて、しかし私は梅雨時の東京も、盛夏の東京も、好きだ。東京、離れて私はどれほどお前を愛していたのかを知ったよ。



 春、私が暮らす町。
 朝、昨日の朝に続き、今朝も雪である。4月というのに。


Sometimes it snows in April
Sometimes I feel so bad, so bad
Sometimes I wish life was never ending,
and all good things, they say, never last


All good things that say, never last
And love, it isn't love until it's past


Prince / Sometimes it snows in April より抜粋


 プリンスの名曲だが、私は専らアマル Amar のバージョン(アルバム「Outside」所収)を聴く。
 不思議な気分に襲われる曲であり、私は長いこと聴いていて、今もってしてこの曲の最後の一行の詞を、どうも理解することが出来ずにいる。


 「愛、それは愛ではない、それが終るまでは」


 凄い詩だな、と思う。


 4月ばかの日に愛を想う馬鹿がいた。


Outside

Outside