ポンテギ


 東南アジアの食文化などを日本に紹介してきた写真家の森枝卓士によれば、ゲテモノには二通りあるという。


 一つ、我々にとってはゲテモノ、現地人にとっては普通の食材
 一つ、我々にとってはゲテモノ、現地人にとってもゲテモノ


 中国広東あたりのヘビ食、ベトナムあたりの孵化寸前茹で卵、中央アフリカ辺の子ザルの姿焼など、前者に相当しそうだ。日本人的な感性ではショッキングかもしれないが、現地では普通の食いものである。文化の違いである。向こうから見ればこちらも相当衝撃的なもの食ってるかもしれないゾ。


 一方、後者は、まぁ、あなたの周囲にもいるかとも思うが、人の食わぬものを賞味することに生き甲斐を感じる者などの仕業であり、個人あるいは有志が好きでやっていることであり、つまりゲテキチである。
 この辺、クエバソノ、アノ、アレニキクヨ(アレとは何か伏す)というような、科学的根拠のあるのやらないのやら、妙な信仰(?)に支えられていたりする場合もある。


 さあて、それでは今日は一丁、サナギでも食ってビールでも飲むか。


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 韓国系のスーパー、食材屋などへ行くと極めて普通そうに、いとも自然に置かれている。蚕のサナギであるな。長野県なんかも、そうさな、蜂の子だのイナゴだの、虫を比較的食う地方なので、蚕のサナギの何したものぞ。


 私は長野県の虫食の味付けにいささか不満がある。たいてい佃煮なのな。ドス黒い醤油色で甘ったるい味付けなのな。もちっと、食材そのものを生かして欲しいのな(自分で作る気はないのだな)。考えてみると、川魚とか山菜とか、全部同じ味付けだよ。佃煮の好きな人々だよ。


 サナギに戻る。缶ぶたをペコっと開けてみると、おお、見るからにサナギが累々。ルイルイさ(古いね)。ドライなサナギを想像していたのだが、ウェットな、薄黒い液体に浸かっておる。やはり何となく「おお!」という声が出るね。それは例えば、期せずしてキャビアの載った前菜が目の前に運ばれてきた時の「おお!」という感嘆符付きの声に似て・・・いないね。明らかにちょっと違うね。



 というわけで箸でつまみ、お口へ運び、噛み、嚥下する。ちょっとキュッとした歯応えだな。味は川海老のような感じかな。薄黒い汁が、動物系の出汁を感じさせる(脂もうっすら浮かんでおる)。サナギ自身から滲み出した出汁なのか外部素材の出汁なのか、ちょっと判断がつかないが、味付けは濃くなく、さりとてしっかりとしており、飽きずに一缶食える。


 ということで、まぁまぁ美味い。素材自体は炒め物や揚げ物にもよさそうだ。


 食ってる最中、テレビでサッカー見ていたので、シルクロードに思いを馳せたり、全然しなかった。反省点である。