パエリヤ


 年に二・三度、パエリヤを作る。20年近く前、確か青山のスペイン料理屋でパエリヤを食って大変感動し、自分でも作らずにはいられねぇぜ、と、渋谷の東急ハンズでパエリヤの鍋を購入して以来の習慣なので、人生通算で40〜50回くらいはパエリヤを作っている勘定になる。両手両足指でも足りねぇぜ。人生それなりの重みに驚き閉口する。


 その間、いろいろと試してきた。なにしろスペイン人でもないし、スペインに行ったことがある訳でもないし、スペイン人の友達もいないしグランド・セオリーがよく分からないのである。


 わからんなりに一応、私がこの20年余りの間に仕込んだ情報を記しておく。



 米は普通の日本米で十分美味しくできる。あんまりべたべたしない種類の方がそれは良いだろう。


 米は洗わない。研がない。理由はよく分からないがそういうことだそうだ。やってはいけない。


 米をオリーブオイルで炒めたあと、スープをじゅばっと注いで炊くわけだが、スープ投入後、米を決して混ぜてはならない。この教えを守ると米がはらっと仕上がる。


 具は大概何でもいいような気がする。


 高価なサフランの代わりにターメリック(ウコン)で色づける手もある。風味は劣る。


 米の仕上がりはアルデンテをもって良しとするが芯を残してはいけない。芯が残ると大変に食い辛く消化に悪い。


 お焦げを作らなければならない。が、焦がしすぎると炭化米が大変に苦い。加減が難しい。


 パエリヤ鍋の大きさにもよろうが、我が家のガスコンロと鍋の比率では、ルーズに蓋をした方が均一に仕上がる。



 というわけで、その時々に入手できる材料でぱぱっと簡単に調理する。
 私は電子レンジでチンの間も、煮込み料理をコトコト制作している間も、オーブンでトリを丸焼きしている間も、ひとときも現場を離れたくないぜ、顛末をつぶさに観察していたいぜ、という性分なので、パエリアもそれが炊き上がる様を傍らでじっと観察する。


 オリーブオイルとニンニクの南欧的な匂い、サフランのほのかな香り、具材から滲み出す味、スープを吸収して膨れていく米。良い。大変に良い。


 作っていると気付くが、これはアラブ人がスペインにもたらした料理であろうな。彼らの米料理の多彩さ、その影響の版図には感嘆する。