私がある流派に属した日


 ロンリーでハングリーなウルフである。俺。


 属するものはもろもろあるが、それらは社会生活の一環であり、また、いかに薄情なこの俺でも人は人の情けなしでは生きられぬこともよーく知っている。とはいえ俺というソリッドな自我がロンリーであることはどうしようもない。どうしようもないんだよおうおおう(遠吠え)。


 さて、ある日、そのロンリーなウルフは獲物を求めて郊外のリサイクルショップへ出没した。ハングリーなのだ。


 まぁ、私が一直線に向かうポイントといえば楽器売り場である。趣味でして。欲を言えば西アジアや東ヨーロッパの民俗楽器などが所狭しと山積みされた売り場になっていて欲しいものだが、その気配はまるでない。ギターやらベースやらといった楽器がメインどころです、といった売り場構成になっておる。こちら今は間に合っています。


 メインどころ売り場を横目に、地味な多段棚やらジャンク品コーナーやらの陳列物を仔細に眺める。どこに西アジアや東ヨーロッパの民俗楽器が埋まっているかもしれんからな。


 もろもろ眺めていて随分ボロだがギター用ハードケースがよいな、と思った。840えんと手頃だし。その辺に転がっているギターを収納しておけばお部屋も片付く。更に、ギター用スタンドもよいなと思った。持ってないし、420円とお手頃だし、その辺に転がっているギターを立てかけておけばお部屋も片付く。そして、ジャンクコーナーに佇む大正琴が目に留まった。う〜む。


 大正琴愛好家には極めて失礼だろうが、私は大正琴の音色がどうも好みではない。あんまり上手な人の演奏を見聞きしたことがないのだが、どうもキャンキャンした高音の喧しい、へたくそな人が弾くとサイケデリックな風情すら漂わす音という印象がある。インドに伝わってそれなりに弾かれていると聞くが、あ〜あ〜な〜る〜ほ〜ど〜と納得する。サイケだもん。音が。


 しかし、その大正琴であるが、1050えんというプライスは大変に魅力的に見えた。しかもピックアップ付きでアンプにもつなげるタイプなのだ。確かに私は大正琴の音色はあんまり好みではないが、ステージで、マーシャルかなんかのアンプにつなぎ、サイケデリックな轟音を轟かす図を想像すると、意外と画的には悪くないぞ、という気になる。その気である。


 しかし気がかりなのはジャンクコーナーに転がるこやつのピックアップは生きているのかという点である。お店の人に聞く。あのー、これ音でますかー。


 店員さんは「はて」という顔をして包装のフィルムをビリビリと引きちぎるとバックルームへ持ち込んでテストを始めた。チロチロと生音が聞こえてくる。こんなとき複雑な思いが去来する。アンプから音が出れば喜ばしいが、出なければ出ないで、それを口実に購入を中止しよう、だってもともと音好きじゃねーもん、などと考えていると「キャンキャンキャーン」と、サイケな音がアンプから轟いた。あ〜あ〜この音だよ。ぜんぜんジャンクじゃねーじゃん。


 じゃあ、それお願いします。あとこれ(ハードケース)とこれ(スタンド)も。なんだか良い買い物じゃねーか。



 ボディに輝く「琴伝流」の刻字。なぜかロンリーでハングリーなウルフの俺のはずが、知らぬ間に知らぬ流派に属してしまったらしい。1050えんで。これから琴伝流の一員として何をしたらいいのか、誰か教えてくれ。