大韓パーカッション


 さて、先週ソウルへ行ってきたわけですが、音楽の話と食い物の話くらい書いておこうかな、と思う。今日は音楽の話である。


 学生の頃、関西地方のちょっとした山麓にある寺に二度ほど赴き、その度、二三日逗留させていただいたことがある。寺といっても寺院建築などではない現代的な素っ気ない建物であったが、機能としては寺であった。在日韓国人が営む、在日韓国人のための。


 寺では朝鮮文化由来の巫俗的な儀礼が執り行われていた。日本でいうと、イタコの口寄せみたいなものだ。信じる人もいるし信じない人もいるだろうが、何かと物事がうまくいかないときなど、その理由が御先祖にあると考え、その理由を御先祖に伺おうというのだろう。後輩がその研究をしており、付き合わせていただいたという次第。


 日本と全然違うのは、銅鑼や鉦、太鼓が打ち鳴らす轟音と激しいビートの中、住職が足を踏み、跳躍し、旋回舞踊し、その果てに御先祖の託宣を賜り、クライアントに伝えるというところだった。とにかく激しい。


 一日中、言葉の分からない儀礼を観察しながら、轟音の中に身を置いていたものだが、そのビートと音にすっかり魅せられた。異界と交信するには、最大音量の道具をぶち鳴らす必要があるだろう、そりゃ、と妙に感じたものだ。


 そんな体験により、私は大韓パーカッション・アンサンブルに強い憧れを抱いてきたのです。


 寺には、太鼓の叩き手がいるにはいたが、技術的に高度なことをやっていたわけではない。今回は折角なので、専門の劇場で高度な芸を堪能することにしよう。



 ということで、光化門アートセンターというところへ向かった。世界的な杖鼓(チャンゴ:砂時計型の紐締め両面太鼓)奏者、金徳洙(Kim Duk-soo)が監修した「PAN」という公演が見られる(本人はまず出演しないらしい)。金徳洙という個人名より、彼が率いるグループ名である「サムルノリ」の名の方が通りが良いのかもしれない。


 金徳洙という人は、齢5歳でその道に入り、7歳にして、全国の専門芸人が競い合う「全国農楽競演大会」で最高賞の大統領個人賞を受賞したという、も、子供のころから神のような人である。そんな子いるか?


 近年、芸歴50年を迎えたらしい。すげぇ。


 演目は若手の男女の演奏者によって進行され、杖鼓、プク(両面大太鼓)、ケンガリ(鉦)、チン(銅鑼)によるパーカッション・アンサンブルを基本に、パンソリ(南部に伝わる伝統的な歌、絶唱である)のさわりや、曲芸的な内容を盛ったもので楽しめた。



 お客は、100人ほどいただろうか、99%韓国人とお見受けしましたが、彼らも最後ノリノリで、彼らを見ているだけでも楽しかった。観客を巻き込んでのパフォーマンス(大コマ回し)では、子供たちが失敗を恐れず我も我もと挑もうとする前のめりな様子も好ましく感じられた。


 で、パーカッション技術であるが、すげえっす。真似できねっす。ありゃ。赤塚不二夫の漫画で、おまわりさんが全力で走っているとき両足が鳴門の渦巻きのように描かれる素晴らしいタッチがあるが、そんな感じです。バチさばきが速すぎて見えましぇ〜ん。そこから打ち出される轟音と複雑なビートのうねり。


 私も杖鼓を所有しておるものであるが、匙を投げた、ならぬバチを投げた状態である。お手上げである。 まったく、人生をやりなおしたくなった。生まれ変わったら太鼓叩き、または銅鑼叩きになります。どちらにしてもドラ息子、なんつって。


 公演終了後、ロビーにて写真を撮れます。気の良い若者たちです。市中の観光インフォメーションにあるパンフレットには入場料10%オフクーポンが付いているので持参を勧めます(といってもこの2月22日までの会期となっていた)。


 帰路、地下鉄駅へ20分ほど、酷寒の中てくてく歩いて行ったが、頭の中、ビートが鳴りやまない状態であった。凄いぞ大韓パーカッション、凄すぎるぞ!と再認識しました。