第一回缶詰を語る


 妙にコンビーフが食いたくなった。コンビーフといえば野崎である。


 しかし、たかが保存食とあなどっていると、意外と、コンビーフは高価なのである。400えん弱くらいではありませんでしたっけ。


 学生の頃は、それはなかなか手の出ない食材であった。私はパンとチーズと缶詰とオリーブの実というような、ラテン人のピクニックのような食卓をこよなく愛していたものだが(あとワインかビールがあるとなお良い)、学生の分際で、缶詰の部でコンビーフをズドーンと購入するのは、まぁ、一缶まるまる一度に食ったりはしないのだが、なかなかの決断が必要といえよう。缶詰一缶に400えんだからな。


 しかし、スーパーの缶詰棚のコンビーフ横には、まるで同じようなパッケージでニューコンビーフなるものが販売されていた。こちらは200えん弱くらいではありませんでしたっけ。なんと半額くらいである。これなら学生の私でも臆することなく購入できるぞ。


 で、何が違うのだろうか。


 私はコンビーフ缶詰一缶の購入に逡巡していたわけだが、その一方で、アルミホイルが500円と言われれば500円で買ってしまうだろうという、昔から割と経済観念の希薄な男である。しかし、この価格差には関心を持った。缶詰記載の原材料を比較すべく両者を手に取った。


 コンビーフは大筋で牛から出来ています。ニューコンビーフは大筋で馬から出来ています(馬牛ミックスである)。なんだ、コンホースか。


 馬肉に何の抵抗もない私は迷うことなくニューコンビーフを購入し、その後、パンとチーズとオリーブの実などとともに食した筈である。以来、ニューコンビーフしか食ったことがないので、経済価値にしておよそ倍額であるところのノーマル・コンビーフ、いや、あえてプレミアム・コンビーフと呼ぼう。それは、ニューコンビーフでさえこんなに美味しいのだから、一体どれほど、一体どこまで美味しいというのだろう。一度食ってみてぇな。


 ところで、昔、トルコを旅行した際、肉団子とジャガイモをトマトで煮たような料理をよく食ったものだが、あるところで食ったその肉団子が、どう考えてもコンビーフ団子のような姿で、コンビーフ団子のような風味で、コンビーフ団子のような噛みごたえだった。それはどうも美味くなかったな。


 ちなみに野崎のニューコンビーフは、ある日何の連絡もなくコンミートと商品名を変えた。スーパーの棚でそれを発見した時には声を上げたものだ。おおっというような、ええっというような。まぁ、そうだよな。なにしろ牛が主に入っている訳ではなかろうからな。しかし、普通にコンホース corned horseと名乗れば良いと思うのだがなぁ。


 ちなみにコンビーフ缶の開け方、付属の鍵のようなもので缶の一端をくるくる巻き取って開けていく方式であるが、昔からそれが楽しくて仕方がない。プチプチを潰すより好きです。