アイス、今が旬だねっ!


 一口にアイスと言っても、かき氷的なガリっとした食感の氷菓、シャーベット的なサラッとした食感の氷菓、さっぱり味から濃厚味まで幅広いアイスクリームなどと、そのヴァリエーションは多彩である。が、まぁ、想像するに、夏には氷タイプのアイスの売上がぐんぐんウナギ登りだろうね。


 ところで、微妙な味わいを醸し出すアイスとして、忘れてはならないのは井村屋のあずきバーだと思うのだ。氷菓ではあるが、粒あずきの質感と、ほんのり甘さ&塩スウィーツとまではいかないまでもどうも微妙に塩味、という立体的な味わいが、なんとなく、今の季節に抜群だよね。井村屋のあずきバーうめぇ!


 ということで、その日もなんだかアイスが食いたくなったので井村屋のあずきバーをいただくことにした。


 さて、井村屋のあずきバーの特色であるが、食ったことのある方には周知であろうが、硬い。非常に硬い。概して歯が立たないほど硬いのである。しかし、私の嗜好としては、柔くなったり溶けだしたアイスというものが今一つ好みではない。


 甘味処でかき氷など食う際も、氷が溶けて器の底にじゃぶじゃぶ溜まるような事態は最も避けねばならぬパターンであるため、猛ダッシュで食う。かき氷を猛ダッシュで食うと、目玉が痛くなりませんか。しかし、そのような目玉の痛み・目玉の疼きに呻いておっては、かき氷がじゃぶじゃぶしたシロップ水になってしまうため、両目を片一方の手で押さえつつ、もう一方の手に握った匙で、かき氷をガッシュガッシュと突き崩し、お口へ運ぶその営みを、一瞬たりとて緩めてはならぬのだ。そして猛ダッシュで食い終えた後、甘味処には目玉を押さえ頭を抱える男が一人。一種の夏の荒行のようなものと言えるだろうな。


 おっと、井村屋のあずきバーの話題に戻ろう。その硬さ、歯折れそうな程の凶悪さなのであるが、柔くしてから食うなどと言う戦略は私にはない。早速いただきます。一口目、それはもう歯立たないですよ。犬歯など駆使してあずきバーの先端を崩していきますよ。二口目・三口目と、徐々に攻略の糸口を確立し、そろそろじっくりと味わいましょうか、という態勢に入った矢先、バキ、と口中で音がした。


 これはいかんよな。


 舌先で前歯を確認する。何かが足りない。舌先で口中に足りない何かを捜索する。何かがある。つまり、以上の論点から帰納的に導かれる解は、「前歯が欠けた」である。ガーン。演繹的に導いたとしてもやっぱり同じ解だよね。ガーンガーン。


 いやいや、待ちたまえ。


 私は一部の前歯表面に化粧的な詰め物をしているではないか。そしてそれを施していたときに歯科医はこう言った。


「一生は持ちません。ある日、何の前触れもなく外れます。ショックでしょうね。その時は電話して!」


 とにかく気が動転した私は即座に歯科(いつでもボサノヴァが流れるボッサ歯科医院)に電話し、翌日はあいにく休業日だったため、翌々日の朝一、速攻で予約したのであった。


 ちなみに、残りのあずきバーはボッサ歯科に電話しながら食い切った。犬歯で。美味かった。


 私は口中から欠けた歯のパーツを回収していた。そういう、自分の身体から出たものを眺めることが好きではない。うんことか。しかし、おそるおそる眺めてみた。それは明らかに、人工的な工芸品ちっくな佇まいをしていた。


 ん?


 こ、これは、挿し歯だ。挿し歯の一部だ。


 私は前歯一本が挿し歯なのだ。その個所を舌先で確認してみる。歯の裏側は残っていて、表面が欠けている。それだ。動転していてすぐに気付かなかったぜ。しかし、挿し歯ってすっぽり被さっているものだと思っていたら、前後で張り合わせなのか?知らんかった。


 ちなみに私は笑っても前歯が露出することのない口をしている。かなり大笑いしていてもシニカルな笑いをしているように人には見えるらしい。嫌な奴だ。しかし、こんな時には幸いだね。前歯が大事になっていても、恐らく誰にも気付かれず、治療の朝を迎えることができた。


 そしてボッサ歯科にて、歯を前後、糊で貼り合わせて、はい完成。かんたーん。


 井村屋のあずきバー、これは訴訟大国USAなどでは間違いなく訴えられているよ、と思うよ。そして冬には井村屋のあんまんを購入してきてレンジでチンが過ぎると、燃えたぎる餡でお口を火傷するぜ(経験者談)。それも訴訟大国USAなどでは間違いなく訴えられているよ、と思うよ。まぁ、それでも私は井村屋を支持します。やはり柔いあずきバーはいかんと、今もそう思うですよ。