栄安の特製蕎麦
福島県会津若松市に栄安という蕎麦屋がある。
私は年に一度、会津地方へ行楽に出かけるのが年間スケジュールとして確立しているのだが、そこの特製ソバというのが気に入っていて、毎年いただくのを楽しみにしている。
ソバそのものは手打ちで、普通のソバよりもやや平たく切られている。普通のソバがするするっと軽く、粋に食されることを前提としているのならば、こちらはもっと、ずしっとした佇まいで、しっかり噛んで食べることを求めているかのようだ。
汁は薄味。鰹だしが全面に漂うようなキリっとした汁ではなく、こんぶだしをほのかに感じるようなまろやかな汁だ。ここのソバには合っていると思う。
そこに茹でキャベツ、切りこんぶ、油揚げ、天かす、葱が、ソバを覆い隠すように乗っている。
すげえ(写真参照)。
茹でキャベツはグズっとなる一歩手前の絶妙の茹で加減で、汁と絡み甘さを感じる。油揚げも大量に投入されており満足感が漂う。こちらもソバ、汁と呼応してまろやかなハーモニーを奏でている(ふっ、詩人だな)。
私は比較的小食な、信用ならない男(?)なのであるが、そんな私にとって、これは凄く満腹になる一品だ。一心に食っても、キャベツも揚げもソバも、食っても食ってもなかなか減らない。だが、味がやさしいので、最後まで飽きることなく食べられます。食べ切ると、一仕事終えたような満足感を感じます。ふ〜、満腹。
日本の食文化の核を構成する要素の一つとしてソバがあるとすれば、このソバはソバのスタンダード、ソバの王道として、日本文化の担い手であるかのように語られるものではないのかもしれない。さりとて、おそらく会津地方の伝統文化に根ざし、人々に長年愛されつづけてきたものであるということも想像に難くない。また、ソバのヴァリエーションを追究するものならば黙殺するわけにはいかない強力な個性も放っているように思う。
私はそのような食いものを日本のフォーク料理と総称し、出会いを大切にしている。何にせよメイン・ストリームが大多数の意志で決まるのならば、それを求めるだけが生き方ではあるまい。大多数やら少数派やら、そんな尺度は取り払って、すべて相対化した視点で見たならば、世界は違って見えてくるのではないか。
さて、お勘定だ。喋り過ぎだ。
600円。
機会がありましたらお試しあそばせ。