Mute Beat


拝啓


 日本はこれから本格的な雨季ですね。他人事のような書き出しですが、私もその参加者一名です。


敬具


 季節ごとに、聞きたくなる曲とか、アーティストとかが、ある。私には。
 それは、その曲を聴いたのがある特定の季節だったとかの要因もあるだろうし、何と言うか、音の質感が季節にマッチしているように感じられるものなどもある。


 雨季の一例
 Mute Beat 『Still Echo』


 80年代半ば頃リリースされたアルバム。12インチシングルをまとめたものだった。
 トランペットが繰り返し奏でる、陰影に富んだ、一度聴けば忘れられないような旋律と、ダブの深いエコーが印象に残った。もう、とっくにMute Beat名義で活動していないのは残念なことだ。


 Mute Beatの曲の特徴と言えるが、どの曲の展開も、いたってシンプルに構造化されている。


 トランペットとトロンボーンが主旋律を演奏し、それが繰り返される。
 繰り返しの合間にベースとドラムスだけのパート、トランペット・ソロなどが挿入され、主旋律の繰り返しにはダブ・ミキシングの効果を織り交ぜたバリエーションが付け加えられる。


 雨季、私はどうもこのアルバムを聴きたくなる。
 湿った重いビートと、素っ気のないほど少ない音数。深い暗闇に響くかのようなエコーのクールな反射音。感傷的なメロディ。
 それらのサウンドの対流が雨季になじむような気でもするのだろうか。
 理由はよくわからない。人によっても受けとめ方は当然違うだろうし。


 曇空の下でも、日々、艶々とする緑があり、裏通りの雑草の蔓は空に伸びていく。咲く花もある。
 夜、雨で濡れた舗道は、信号灯や、街灯の明かりを反射する。


 かように、燦々と輝く太陽の下でなくとも、ユニークな光を放つ存在はあるものだ。


 あぁ、実は、冬に聞きたくなるMute Beatのアルバムもある。それはそれということで、つまり、私は今もMute Beatに心酔しているということだ。まったく、メンバーになりたいくらいだぜ(もう活動していないけど)。またはコピー・バンド結成したいくらいだぜ。マンドリンとかリコーダーしかできないのだけれど。そのうえ、下手なのですけれど。