DADGAD

春の気配



 先日、昼下がり、マイクの前でギターを何気なく弾いていたら一曲できました。


 うーん、少し語弊があるな。私は「何気なく」とか「何となく」とか「取りあえず」がときどきとても傲慢な姿勢に思えるものだ。謙遜の意でそうした言葉をお使いになる方がいらっしゃることはわかっているが、自分の楽しみでやっている音楽などには使いたくないな(と言いつつこれまで使っているかもしれませんが)。


 改めて。
 先日、昼下がり、も、途方もない、人類史に残るような一曲を制作しようとギターを爪弾いたものですが、そうした作品を産み出すには至らず(至るもんか)、しかし、季節の気配を伝えるような音を奏でられたかもしれません。よろしかったらお聞きいただければ、とても嬉しいです。



 「春の気配


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 ギターは通常、6弦から1弦に向けてミラレソシミ(EADGBE)と調弦されるものだが、まぁ、そんなもの、別にそう決まっているわけでもないし、弾く人間が好きなように、やり易いように調弦すればそれでよろしい。ここではレラレソラレ(DADGAD)と調弦している。


 この調弦、そうは言ってももちろん私が開発したものでもなんでもなく、英国トラッド音楽などで割とポピュラーに用いられる調弦らしい。その筋の情報誌で覚え、以来、私はこの調弦を「モーダルD」と呼ぶものだと思っていたら、最近、むしろ調弦をそのまま読んだ「ダドガッド」などと呼ばれるらしきことを知った。まったくギターに関して、私は知らぬことが多すぎる。


 ダドガッド調弦は繊細でメランコリィ、しかし、その中に明るい音色も容易に奏でられる特性を持っている(と思う)。なるほど、英国のトラッド、その辺りのケルト音楽から、時にポピュラー音楽に至るまで、それに類した響きを感じることも多い。


 私にしてみれば、曇り空と太陽、肌寒さと温もり、裸の枝にこっそり吹いた緑の芽、そんな印象を表現するのに適した調弦なのではないかな、なーんて感覚的なところで捉えている。そして、腕に覚えのある方は試してみればわかるだろうが、押さえる指は二本、一か所だけ三本で、この曲はあっさりと弾けてしまうのである。


 道理で、ある昼下がりに短時間で涼しく録音が完了したわけだ。季節と調弦のコラボレーションである。