痛痒


 ビー、ビー、ビー、警報発令!


 ハチに刺された。


 風呂からあがってパジャマに着替えようと、ズボンを履いたら左足ふくらはぎ内側に鋭利な針を突き立てられたような電撃的な痛み。


 うわぁいてぇぇえ!


 慌ててズボンを脱ぐ。脱ぎ捨てる。過去の経験から、こんな場合は間違いなくビーの仕業である。ハチの野郎、屋外に干されたちょっと厚手生地の洗濯物の中が好きなのだ。


 以前にも長袖のシャツとか、やはりパジャマなど着ようとして刺されたことが何度かある。まったく私のような虫も殺さぬ博愛主義者を殺めようとするとは不届き千万。おのれ〜。


 しかし、これまで衣服の中に潜むハチの攻撃を受けた季節は常に晩秋であった。日々気温が低下していく中、陽に当たる厚手洗濯物生地の中に埋もれてしまいたいのだろうなと、その感覚、よく分かる。お前も人の子だったんだなぁ(基本認識の誤認)。


 にもかかわらず、一体、これからハチとしての活動本番という時期に、なお洗濯物の中に忍び込むとは、怠惰な。そして、人が、しかもそのパジャマの所有者である私が、足を突っ込むや否や、突如として惰眠から目を覚まし、滅多矢鱈と人のふくらはぎ内側に毒針を突き立てやがるとは。この人でなしめ(基本認識の追認)。


 ということで二次災害防止の観点からハチはトイレットに流された。じゃー、ゴボゴボ。嗚呼、また無益な殺生を重ねてしまった。



 さて。過去の経験からこの先どーゆー症状を辿るのかもよくわかっておる。ひとしきりの痛みの後、熾烈な痒みが襲ってくるのだよ。とりあえず、ハチに刺された馬鹿向けの塗り薬(抗ヒスタミン剤入り)を患部に塗り塗りして寝る。


 翌朝から翌日中は少しチクチクする程度の痛み。


 続く二日目の朝。来たよ、来やがったよ、痒みが。ふくらはぎを掻き毟りながら目を覚ます。なんてゴキゲンなお目覚めなんだ。塗り薬塗りまくり。一日中痒い。患部は赤々とし、刺された箇所の皮膚が盛り上がっておる。


 更に三日目の朝。痒み更に前日比20%アップ。皮膚の盛り上がり状況から、野郎、6〜7ヶ所は人の皮膚に針を突き立てたように思えるのだが、真っ赤につながっていて詳細な様子が未だに判明せず。


 そして、今も押し寄せる痒みのウェーヴを肌で感じながら顛末を綴っている。まぁ、私は痒みに対して、非常に抵抗力を持った男であると自己評価しておる。今日まで蚊に刺されたり、ダニに食われたり、南京虫に這われたりしても、痒みに打ち負かされることなくこうして元気に生きておるからな。う〜ん、強い。この難局もいずれ乗り切ることだろう。


 ハチ、注意してください。


 しかし、ふくらはぎ内側という部位は不幸中の幸いだったかもしれん。野郎がパジャマの股の辺りのシークレット・ゾーンなどに潜伏しておったらと思うと、そんな悲喜劇は歌にでもしたくなる。