転石苔むさず
中学生ぐらいのとき、ぼさーっとテレビを見ていて、ローリング・ストーンズのライブ映像に出会った。たしか曲は「悪魔を憐れむ歌」だったと思う。
その時点で既にその映像は相当過去のものだったはずだが、その演奏といい、パフォーマンス(主にミック・ジャガーの動き)といい、マジカルに感じた。初めて見るマジカルさだった。
ロンドンのハイド・パークでのコンサートで、どう見てもハイになってイッちゃってる奴とか、客席の画もすげえな、と思ったものだ。
よくある「私とストーンズとの出会い」とか「私とロックとの出会い」みたいな話だ。
それまでの人生(十数年)の歩みが、日本の歌謡曲→日本のフォークソングというドメスティック路線の流れだったところに急にストーンズが入り込んできたというわけ。
それまでロックなんて聞いたこともなかったが、とにかく若者はロックだ、ロックはストーンズだ、ストーンズを研究するのだボキは、と決意し、小遣いを握りしめてレコード屋に行くと、実に初心者向きな「ゴールド・スーパー・ディスク」とかいうレコードがあったので購入した。2500円くらいだったと思うけれど、なかなかビッグな買い物だったね。中学生にとっては。
で、聞いてみると、当時の日本で主流だったニュー・ミュージック風のサウンドとは一線を画すサウンドが、次から次へと飛び出してきた(60年代の曲ばっかりだったし)。
Tell me, Time is on my side, ( I can’t get no ) Satisfaction, etc.
正直にいいな、と思ったのはフォーク調の As tears go by と Ruby Tuesday だったから、いきなりロック体質に変貌するのは困難だったのだと思う。
まぁ、そんなことで、その良さをすっかり理解していたわけではなかろうが、もう、ストーンズというのは最クールで、反抗心を持った若者が手本とする存在であり、また、そんな若者を狂乱ハイな世界へ導いてくれる地上最強のロックンロール・バンドなのだ、と、わけもわからず盲信しておった次第。
そんな日々を送っていれば、そりゃあ、その良さもだんだんわかってくるようになるさ。アルバム Let it bleed は本当に好きだな。いい曲ばかり入ってる。
しかし、その後、ロック世界にズブズブはまっていって、ストーンズは俺の中の首位の座からどんどん後退していく。現実世界では彼らはすでにオッサンだったし。ストーンズのせいじゃあないさ。俺の心変わりさ。聴きまくったのは2年間くらいかな。
さて、歳月は流れた。
この間まで繰り広げられていたサッカーのワールド・カップ、イングランド対ポルトガルのハーフタイム、スタンドのミック・ジャガーがテレビに映し出された。
襟のあるシャツをさらっと着て、すっと立っていた。サングラスもしていた。
俺の中でストーンズの魔法は、もうすっかり解けているものと思っていたが、彼、オーラを放っていた。ディエゴ・マラドーナとは全く異質の、あきらかにそれとわかる妖気のような。
んんん、カッコイイ。
思わず唸った。
少し、あのマジカルなパフォーマンスがフラッシュ・バックしたぜ。
イングランドは負けた。